CLIL の全体像:基礎知識と家庭内学習への応用
CLIL(Content and Language Integrated Learning | 内容言語統合型学習)は、教科内容を学びながら第二言語を習得する効果的な教育法です。
この記事では、まず CLIL の基本的な概念とそのメリットについて解説し、次に 0-7 歳の子ども向けに家庭で実践できる具体的なアクティビティを紹介します。
家庭内で子どもの学習をサポートするためのアイデアと方法をお伝えしますので、ぜひ参考にしてください。
この記事では、以下の点を学んでいただきます:
- CLIL とは何か
- CLIL の利点
- CLIL と関連する他の教育方法
- 教室での実践例
- 家庭内学習への応用方法
- よくあるトラブルとその解決策
- ギリシャにおける CLIL の成功事例とその分析
CLIL の基本概念
CLIL とは何か
CLIL(Content and Language Integrated Learning)は、内容学習と英語学習を統合する教育方法です。これは、例えば数学や科学、歴史などの科目を英語で学ぶことで、言語と内容の両方を同時に習得することを目指します。
CLIL の歴史と背景
CLIL は 1990 年代にヨーロッパで発展し、多言語教育のニーズから生まれました。ヨーロッパの多くの国で、異なる言語を話す人々が共に暮らしており、効率的な言語教育方法として CLIL が採用されました。
CLIL の基本的な原則
CLIL は、以下の 4 つの原則に基づいています:
- 内容(Content):学問領域の知識と理解
- 言語(Language):言語スキルの向上
- 認知(Cognition):思考スキルの発展
- 文化(Culture):文化的な意識と国際的視点の養成
CLIL の利点
言語学習と内容学習の統合の利点
CLIL の最大の利点は、言語を学びながら実際の内容を学ぶことで、実践的かつ自然な言語習得が可能になることです。例えば、科学の実験を英語で行うことで、科学の概念と同時に専門的な英語の語彙や表現を学ぶことができます。
認知発達と CLIL
CLIL は高次の思考スキルを養成します。内容学習とともに問題解決能力や批判的思考能力が向上します。
学習者の動機づけの向上
実際のコンテクストで学ぶことで、学習者は学ぶ内容に対して高い動機づけを持ち続けることができます。
CLIL と関連する他の教育方法
バイリンガル教育との依存関係
バイリンガル教育は、二つの言語で教育を行う方法です。CLIL は、バイリンガル教育の一部として実施されることが多く、特定の教科を外国語で教えることで、言語と内容の両方を学びます。例えば、カナダのフレンチ・イマージョン・プログラムでは、フランス語を使って数学や科学を教える際に、CLIL の原則が取り入れられています。
イマージョン教育との依存関係
イマージョン教育は、学習者が第二言語に完全に浸ることで、その言語を習得する方法です。CLIL は、イマージョン教育と組み合わせて使用されることが多く、特定の学問領域を学びながら言語を習得します。例えば、アメリカのデュアル・ランゲージ・プログラムでは、英語とスペイン語を使って授業が行われ、CLIL の手法が取り入れられています。
プロジェクトベース学習(PBL)との依存関係
プロジェクトベース学習は、実際のプロジェクトを通じて知識やスキルを学ぶ教育方法です。CLIL は、PBL と組み合わせることで、学習者が実際のプロジェクトを通じて内容と同時に言語スキルを習得します。例えば、ヨーロッパの多くの学校では、環境問題に関するプロジェクトを CLIL の一部として実施し、英語でプロジェクトを進めることで言語スキルも向上させています。
タスクベース学習(TBL)との依存関係
タスクベース学習は、特定のタスクを通じて言語を学ぶ方法です。CLIL は、TBL と組み合わせることで、学習者が実際のタスクを通じて内容を学びながら言語スキルも向上させます。例えば、ドイツの一部の学校では、科学実験をタスクとして設定し、英語で実験を進める CLIL アプローチを採用しています。
ブレンデッドラーニングとの依存関係
ブレンデッドラーニングは、オンラインと対面の学習を組み合わせる教育方法です。CLIL は、オンラインリソースを活用して言語学習を補完することで、ブレンデッドラーニングの一部として機能します。例えば、スペインの一部の学校では、オンラインプラットフォームを利用して CLIL 教材を提供し、対面授業と組み合わせています。
CLIL の実践例
教室での具体的な例
- 小学校の科学の授業:生徒は簡単な実験を行い、その手順と結果を英語で記録します。例えば、水の状態変化(固体、液体、気体)を学ぶ際に、氷を溶かして蒸発させる実験を行い、その過程を英語で説明します。
- 中学校の歴史の授業:生徒は特定の歴史的な出来事や人物について英語で調査し、その情報をプレゼンテーション形式で発表します。例えば、第二次世界大戦について調べ、その原因と結果を英語でまとめます。
家庭内学習に CLIL を応用する方法
家庭でできる CLIL の活動のアイデア
家庭でも CLIL を応用することは可能です。例えば、以下のような活動が考えられます:
- 料理のレシピを英語で読む:料理をする際に、英語のレシピを使用します。材料や手順を英語で理解し、料理を作りながら英語を学びます。
- 科学の実験を英語で行う:家庭でできる簡単な科学実験(例えば、酢と重曹を使った火山の噴火実験)を行い、その手順や結果を英語で記録します。
- 歴史の調査を英語で行う:家族で興味のある歴史的人物や出来事について英語で調べ、その情報を共有します。例えば、週末に家族で一緒に博物館に行き、展示物について英語でディスカッションします。
よくあるトラブルとその解決策
トラブル 1: 子供が興味を示さない
解決策: 子供の興味を引き出す内容を選びます。例えば、子供が恐竜に興味がある場合、恐竜についての英語の本を読んだり、恐竜のドキュメンタリーを英語で見たりします。
トラブル 2: 英語が難しすぎると感じる
解決策: 子供のレベルに合った英語の教材を選びます。簡単な英語の絵本や動画から始め、徐々に難易度を上げます。また、母語を補助的に使って説明することも有効です。
トラブル 3: 保護者自身の英語力に不安がある
解決策: 保護者向けの英語学習リソースを活用し、一緒に学ぶ姿勢を持ちます。オンライン翻訳ツール(例えば、Google 翻訳)や辞書を活用して、分からない単語や表現を調べます。
トラブル 4: 継続性が保てない
解決策: 日常生活に CLIL の要素を取り入れ、自然な形で学び続ける工夫をします。例えば、家族のルールや日常会話を英語で行う、毎日の活動(例えば、買い物や料理)を英語で行うことを習慣にします。
トラブル 5: 適切な教材やリソースが見つからない
解決策: 教育サイトやアプリを活用し、信頼できるリソースを選びます。また、学校や図書館で利用できるリソースも活用し、専門家の意見を参考にします。
ギリシャにおける CLIL の成功事例とその分析
ここでは、2006 年から 2020 年までにギリシャで行われた CLIL の成功事例を分析した結果を紹介します。成功事例の具体的内容は記事の最下部にある参考文献をご覧ください。
成功事例の分析結果
1. 言語能力がアップ
多くの成功事例で、CLIL が学生の語彙力や言語能力の向上に効果的だと示されています。例えば、Anagnostou et al. (2016)や Dourda et al. (2014)の研究では、CLIL プロジェクトを通じて学生の英語の語彙力が向上したことが確認されました。また、Georgopoulou-Theodosiou (2016)や Hasogia and Vlachos (2019)の研究でも、ICT を組み合わせた CLIL が言語学習に良い影響を与えています。
2. 学習へのやる気アップ
CLIL は学生の学習意欲を高める効果があります。例えば、Griva and Chostelidou (2017)や Griva and Kasvikis (2015)の研究では、CLIL プロジェクトを通じて学生のやる気が上がり、ポジティブな態度が形成されました。これは、CLIL が学生にとって興味深い学習体験を提供するからです。
3. 考える力の強化
成功事例のいくつかは、CLIL が学生の思考力を伸ばすことを示しています。例えば、Psaltou-Joycey et al. (2014)の研究では、CLIL を受けた生徒がさまざまな学習戦略を好んで使うことがわかりました。また、Fokides and Zampouli (2017)の研究では、仮想環境を使った CLIL が認知的学習において優れた結果をもたらしました。
4. 異文化理解と社会的意識の向上
CLIL プロジェクトは、異文化理解と社会的意識の向上にも役立ちます。例えば、Griva and Chostelidou (2017)や Korosidou and Deligianni (2017)の研究では、文化に関する CLIL プロジェクトが学生の文化感受性や社会的意識を高めたことが報告されています。これにより、学生は多様な文化を理解し、尊重する心を育てることができます。
5. チームワーク力の向上
CLIL プロジェクトは、学生の協力とチームワークを促進します。例えば、Dourda et al. (2014)や Hasogia and Vlachos (2019)の研究では、ピアコラボレーションが成功し、学生の協力スキルが向上しました。これは、CLIL が共同作業を通じて学ぶ機会を提供するためです。
6. 教師の成長
いくつかの成功事例では、CLIL プロジェクトが教師の成長にも役立つことが示されています。例えば、Gikopoulou et al. (2018)の研究では、教師が CLIL プロジェクトを通じて新たな教育スキルを獲得し、プロフェッショナルなスキルが強化されました。これは、CLIL が教師にとっても挑戦的で、自己成長の機会となることを示しています。
まとめ
この記事では、CLIL の基本概念とその利点、家庭内での応用方法、教材の選び方、他の教育方法との関係、そしてよくあるトラブルとその解決策について解説しました。また、ギリシャにおける CLIL の成功事例とその分析をご紹介しました。
何か質問や不明点がありましたら、遠慮なくお知らせください。皆さんが家庭内で CLIL を実践し、子供たちの英語力と学問の理解を向上させる一助となれば幸いです。
参考文献
- Soler, D., González-Davies, M., & Iñesta, A. (2017). What makes CLIL leadership effective? A case study. ELT Journal, 71(4), 478-490.
- DeBoer, M., & Leontjev, D. (Eds.). (2020). Assessment and learning in Content and Language Integrated Learning (CLIL) classrooms. Springer.
- Eurydice (2006). Content and Language Integrated Learning (CLIL) at School in Europe. European Commission.
- Fokides, E., & Zampouli, C. (2017). Content and language integrated learning in OpenSimulator project. Education and Information Technologies, 22(4), 1479–1496.